19年前のクリスマスイヴは、12月の少年が生まれた日だ。

 その当日とコンサートがぶつかった。
 「6月生まれの少年の威信にかけても盛大にやるだろう」
 そんなことをみんなが考えていた。
 6月生まれの少年が人生で何よりも好きなことは
 「寝ることと人の誕生日を祝うこと」で多分間違いないからだ。

 最初の公演のMCで、もうプレゼントが出てきた。
 てっきり次の公演の時にやるもんだろうと思っていたから、
 するすると客席からハッピーバースデーのコールがおこって
 するすると相葉が前に押し出され、
 気がついたらもうステージの上に全員分のプレゼントが集合していた。

 12月生まれの少年本人も、この回でそれをやるとは予想していなかったのかもしれない。
 本当に「きょとん」という顔を彼は一瞬した。

 6月生まれの少年は、やたらでっかい箱を持ってきた。
 その箱にしがみつくようにして、
 「俺今回おもしろくないんだよ〜〜〜」
 と嘆くように言いながらますます箱にしがみついた。
 「6月生まれの少年からのプレゼントを最初にあげる?」
 と8月生まれの少年が言ったけど、
 いやそれは最後にしようと
 1月生まれの少年と11月生まれの少年が声を揃えた。

 1月生まれの少年のプレゼントは中くらいの箱だった。
 12月生まれの少年はそれをもらってまず「あけていいの?」と言った。
 以前、同じようなことが8月生まれの少年の上におこった時、
 彼もやっぱり「あけていいの?」と聞いていたことを思い出した。

 1月生まれの少年の箱の中身はヘルスメーターだった。
 体脂肪計がついていて、畳の上と絨毯の上では使えないことが自慢だと1月生まれの少年は笑っていた。
 8月生まれの少年は自分のドラマのDVDを持ってきた。
 実はそこに来る前日深夜2時、1月生まれの少年に電話をかけて
 「何あげたらいいかわかんないよ〜」と
 泣きついたことは内緒にしておきたかったのに、
 1月生まれの少年がその場でバラそうとしたから
 「バカバカバカ!」と止めようとしたけれど、
 止めるなんてことは当然のごとく無理だった。

 11月生まれの少年はバーバリーの袋を持ってきた。
 「バーバリー」だと何度も言ったら、
 6月生まれの少年に
 「昨日覚えた言葉みたいに言わないでくださいよ」
 と速攻でつっこまれた。
 袋の中からは、まず野菜のレプリカが出てきた。
 店に飾ってあったのを気に入って、売り物じゃないものを無理に買ってきたのだと言った。
 その場で値段をつけてもらったという話の途中で
 「そんなたけーもんじゃねーだろ!」と
 1月生まれの少年がつっこんだ。
 もうひとつ、バーバリーの袋から出てきたものは
 『折りたたみ式のステッキ』だった。
 みんなで笑いながらさんざんそれをいじっている時、
 「どうしてこういうもの売ってるって知ってるの?」と、
 8月生まれの少年は心底不思議そうにつぶやいた。

 6月生まれの少年は、プレゼントに「3万」かけたと言い切った。
 「バブリーじゃん!」と1月生まれの少年が言ったから、
 「俺、人の誕生日くらいしか金使うとこないから」と返しておいた。
 しがみついていた大きな箱からは、フットバスが出てきた。
 それを見て1月生まれの少年が
 「あっぶねー!俺それにしようかと思ったんだよ!」と
 ものすごく驚いた、そしてものすごくほっとした顔で言った。
 そしてもうひとつ、投げるように渡した袋の中から出てきたものは
 胸に「相葉」の名前入りの『黒の全身タイツ(もじもじくんふう)』だった。
 呉服店で、スピードスケート用のタイツとして売っていたと6月生まれの少年は説明した。
 座はとんでもなく盛り上がって、「それに着替えてこいよ!」
 という話であっという間にまとまった。
 12月生まれの少年も、あっという間にタイツを持ってステージ袖に消えて行った。
 「どうせだったら下からポップアップして出てこいよ!」
 「すいません、他の照明いいんでポップアップのとこだけ
  ピンスポおねがいしまーす!」
 色んな声が飛ぶ中で、ステージの下の方から
 「いきなりポップアップとか言うから下の方パニクってるよ〜」
 と、12月生まれの少年の楽しそうな声が聞こえた。

 果たして、12月生まれの少年は、
 本当にそれを着てポップアップで派手に出てきた。
 それを見ていた4人は酸欠になりそうなくらい笑った。
 その流れのまま
 「もうどうせだったらそれ着て歌えよ!」
 という話になった。
 8月生まれの少年はどっちでもいいような顔をしながら客席に
 「これ着て歌ってほしい人ー!」と多数決を取った。
 (勿論タイツのまま歌ってほしい人が大多数だった。)
 1月生まれの少年はホントかよという顔をしながら顔は笑ったままだった。
 6月生まれの少年は助け舟を出すように「上だけ(衣装)着る?」と口にした。
 11月生まれの少年は、絶対にそれを着たまま歌ってほしくてしょうがなかったから、早く歌にいこうととっとと進行しようとした。

 そして、あまりに潔く12月生まれの少年はそれを着たまま1曲歌った。
 8月生まれの少年は首から下は普通に動きながらも顔の笑いが止まらなかった。
 1月生まれの少年はただただおかしくて笑い崩れていた。
 6月生まれの少年は見ると笑ってしまうから、なるべくそっちの方を見ないようにしていた。
 11月生まれの少年はとにかくおかしくてしょうがなくて、踊りながら床に手をついて笑っていて、8月生まれの少年にべしっと背中を叩かれた。
 当の12月生まれの少年が、実は一番普通に踊っていた。
 ハケる直前、「すいませんでしたーー!」とハジけて言った。

 アンコール直前、最後の挨拶の時、まんなかに立っていた8月生まれの少年がふと横をむいて12月生まれの少年に何かを言った。
 6月生まれの少年が最初に挨拶をして、「全身タイツ着てくれてありがとう」と言った。
 次に11月生まれの少年が挨拶をして、その次は12月生まれの少年のはずだったんだけれど、それは飛ばして8月生まれの少年が挨拶をした。
 それが終わって1月生まれの少年が挨拶をした。
 12月生まれの少年の挨拶の順番が、一番最後に変更された。

 12月生まれの少年は「うれしい」と何度も口にしながら、途中とうとう言葉につまった。
 言葉につまりながらなんとか挨拶を続けて、でも最後に「ありがとうございました」と言ったら、もう涙を止め切れなかった。
 両隣にいた1月生まれの少年と8月生まれの少年がやってきて肩を抱いたけど、12月生まれの少年は体を折り曲げるようにしてぼろぼろ泣いていた。
 泣いちゃったよ、とでも言うように8月生まれの少年が横を向くと、
 6月生まれの少年は自分も泣いてしまわないようにそっぽをむく素振りをした。
 11月生まれの少年は、くるりと後ろをむいてモニターを見て、何がおきたのかを確認した。

 アンコール最後、ラストのラストの挨拶も、順番を変更して12月生まれの少年が最後になった。
 客席に何度も「ありがとう」を言った後、12月生まれの少年はくるりと後ろを振り向いて
 「桜井翔!」と、叫んだ。
 続いて「松本潤!」「大野智!」「二宮和也!」と、叫んだ。
 「ありがとう」を言いたい人は、自分の後ろにも4人いた。


 その日2回目の公演は、MCでするするとハッピーバースデーが始まった後、
 くだんの全身タイツを着たスタッフさんがサインボールとサイン色紙を持ってきた。
 「嵐のサイン」
 「相葉ちゃんのとこはセルフサービスだから自分で書いて」
 そんなことを言いながら、さっきの公演のは誕生日プレゼントで、
 こっちはクリスマスプレゼントだと説明した。
 「1回目の時ねぇ、すごかったんだから」
 そんな説明をしながら、この回のMCは終わった。

 コンサート後半、クリスマスメドレーを歌っている時、
 ものすごくナニゲない形で8月生まれの少年が12月生まれの少年の肩を抱いて歌いながら前に出てきた。
 12月生まれの少年はされるがままに前に出てきて、
 でもそこで8月生まれの少年が待っていろとでも言うように
 その場に12月生まれの少年を押しとどめて
 自分はメインステージに走って戻った。
 次の曲はきよしこの夜のはずだけど、
 12月生まれの少年を1人ステージの前において、
 会場に流れた曲はHappy birthday to youだった。

 12月生まれの少年は、後ろを振り向く前に「なんだよ!」
 という顔をした。
 うれしくて、また泣きそうで、だから「なんだよ!」って、そんな顔をした。
 振り向いた視線の先には、ろうそくが立ったケーキが待っていた。

 8月生まれの少年がこれからもよろしくと言って12月生まれの少年と握手した。
 1月生まれの少年がお誕生日おめでとうと言って12月生まれの少年と握手した。
 6月生まれの少年は、何か言ったら自分が泣いてしまうから何も言えなくて、ただ、手を出した。
 12月生まれの少年は6月生まれの少年の手を握って、ただ「ありがとう」と言った。
 言いたいことはわかりすぎるくらいわかっているから、言いたいことはちゃんと聞こえたから、だから「ありがとう」と言って、ただ、手を握った。
 11月生まれの少年はろうそくを手に持ちながら
 いやなことがあってもこれからも前向きにがんばっていこう、と
 そんなふうに言った。

 6月生まれの少年は最後の挨拶で、ぼそぼそとクリスマスイヴは12月生まれの少年の誕生日だけでいっぱいなんだと、そんなふうにも言った。
 12月生まれの少年は、「みなさんに負けないくらい僕も嵐と嵐の他の4人が好きです」と挨拶をした。

 そうして今日が終わる時、12月生まれの少年はいつもの調子で「ビバアラシ!」と叫んだ。
 ビバアラシ。
 ビバアラシ。

 ビバアラシ!&ハッピーバースデー相葉ちゃん!
 日本一かっこよくってイサギヨイ、日本一イイオトコの貴方に。
 ビバアラシ!&ハッピーバースデー&メリーメリークリスマス!

 ビバアラシ!
 ビバアラシ!

 Viva - A・RA・SHI!



 2001.12.24