少年は荒野をめざす |
少年は荒野をめざす。そう、相場は決まってる。 少年たちは本当は海をめざしていた。キレイな砂浜をめざしていた。 そこにむかって走っていた。そこにむかって走っているはずだった。 12月生まれの少年には色彩がない。モノクロでもない。カラーでもない。 見たこともないような色をしているから「色彩がない」ように見えるのかもしれない。 色彩のなさは奇妙に現実と融合し、時に現実と切り離れて見える。 1月生まれの少年には屈折がない。 屈折しそうな谷間を見ても、絶対にため息をつかない。 ため息をつく代わりに瞬きをひとつする。 ため息をつくと幸せが逃げると、かたくなに信じている。 11月生まれの少年には過去がない。 大きすぎる過去があるんだけれど、でも過去がないような顔をしている。 ずっと前からそこにいるような顔をして、気づけばそこが安住の地になっている。 6月生まれの少年には夢がない。でも現実にも絶望しない。 楽しいとか楽しくないとかそういうことは考えない。 やらなきゃ始まらない、それだけはわかってる。 8月生まれの少年には自信がない。褒められても納得しない。 理想がありすぎて現実がおいつかない。 自信がない自分は大嫌いで、でも大好きだからムズカシイ。 きっと、少年たちは実感がほしかった。 ありきたりの言葉でいえば、生きてるって実感。 自分が必要とされてるって実感。自分には居場所があるんだって実感。 それを求めて、海をめざして走ってた。 そのむこうに海があると思って走っていた。 もし、たどり着いた先が荒野だったとしてもそこに居場所があるのなら、 走ることを辞めようとは思わなかった。 走ることを辞めようとは思えなかった。 少年たちは列車にのった。西へ向かう列車にのった。 西へ向かう高速の列車にゆられながら、 少年たちは「まだ早いと思う」と口を揃えた。 大勢の人たちの前で形になった自分たちを見せるには、 「まだ早いと思う」と口を揃えて言った。 それでも、少年たちは列車にのった。 西へ向かう列車にのった。 走ることを辞めるわけにはいかなかった。 8月生まれが土台をつくった。『誰がやってもいいんだけど』 たとえば、自分じゃない、1月生まれの奴を好きな女のコたちとかに 文句言われたりしないように、それだけは気をつけてつくった。 大丈夫なように出来ていると思ったけれど、そうじゃないかもしれないとも思った。 でも、1月生まれが「ありがとう」って言ってくれたから、 8月生まれは少しだけ安心した。 11月生まれは「盛り上げ方がわからない」と言った。 それは他の奴らまかせる、と言って笑った。 1人でも平気な顔して踊れるはずなのに、「1人じゃもたない」と言って笑った。 となりで、1月生まれと6月生まれも笑っていた。 11月生まれが笑っているのを見て、 8月生まれはぽつんと「かわいい人です」と口にした。 1月生まれは「とにかく楽しく」と何度も言った。 自分たちを見に来る大勢の人たちが 「とにかく楽しく」なるように、と、ただそれだけを願っていた。 本番で1月生まれが転びそうになった時、 12月生まれと11月生まれが助けてくれた。 ここで「ありがとう」を言うと照れるかなと思ったから 「やってくれんなぁ」って感心したフリをした。 12月生まれは達成感という言葉を使った。 終わった後、やり残したことはないように思ったと、そう言って笑った。 高い台から飛び降りるのがうまくいくか心配だと 列車の中で不安げにしていたけれど、 達成感の方が強かったからそんな不安は忘れていた。 そういえば、11月生まれとは体内リズムが同じなんですよ、 と、思い出したようにつぶやいた。 6月生まれはフクザツな顔をした。 12月生まれが唄う後ろでギターを弾くのは楽しかったけれど 自分1人でギターを弾くつもりじゃなかったとほんの少しだけうつむいた。 いつまでも15歳ではいられないと、笑いながら訴えた。 そしたら12月生まれの奴がひょっこりその場にやってきて どうでもいいようなことを言ったから、 6月生まれもどうでもいいようなことを返してやった。 それだけで、少し気がラクになった。……ような気がした。 少年たちは円陣を組んだ。 1月生まれが叫んだら、11月生まれが驚いた。 8月生まれは直前まで緊張していて、 6月生まれはステージに出ると顔が違った。 ……12月生まれのチャックが全開だったことは、 内緒にしないでとっととバラしてしまおうとその場にいた全員が考えた。 11月生まれは汗を飛ばしてよく踊った。昔、踊った歌だった。 今やるとヘタになるなと思ったけれど、 でもやって欲しいって声を聞いたから、だからやった。 ヘタになっても、やりたかった。昔、踊った歌だった。 あの時も、今も、こんなに高く飛んでいるよと 誰かに伝えておきたかった。 6月生まれはムカつくぐらいかっこよかった。 楽しいとか楽しくないとかは、相変わらず考えてなかった。 ただ、目の前にあることは大切にやろうと思った。 目立つことは好きじゃないけど、どんなに目立ってもいいと思った。 呼びかければ1万人の反応が返ってくる、 そのためなら声も出せると思った。 12月生まれの飛び降りは無事に成功した。 やってみれば、案外さらっとしたものだった。 うまく出来たから、素直に嬉しかった。 とにかく真剣にやろうと思った。目の前にあることを全部。 全部真剣にやったから、全部満足した。 よくないところもあるかもしれないけど、 それはそれとして満足したことが嬉しかった。 1月生まれは楽しい、と思った。 ここにいることを、この空間を楽しい、と思えた。 いつもよりキレイな顔ができた。 いつもよりまっすぐに動けた。 最後に涙が出てきたのは、予想外だと思った反面、 そうなるような予感もあったような気がしていた。 ・・・貴方に、見ていてほしかった。 1月生まれがステージ上で言葉につまった時、 8月生まれは笑顔で「がんばれー」と言葉に出した。 いっぱいいっぱいだったけど、それでも笑顔になれた。 いっぱいいっぱいだったけど、それでも冷静になれた。 ソラを飛ぶその瞬間に笑顔でいれば、 その空間が笑顔になれるのだと信じていた。 そうして、もうすぐ次の夏がきて、 少年たちは列車にのりこむ。 西へむかう列車の中で、今度は何を思うのだろう。 列車の中の車窓からは、広がる荒野しか見えない。 その先の海をめざして、走っているはずだけど…。 別に。その先に海があるなんて、本当は信じてもいない。 きっと、この車窓から見える荒野はこの先も続いてる。 少年たちがたどり着く先は、きっと海ではない。 たどりつく先には、きっと荒野が待っている。 それは、多分わかってはいる。わかってはいるけれど、でも。 まだ、辞めるわけにはいかない。まだ、走ることを辞めるわけにはいかない。 少年たちは荒野をめざす。その先の海をめざして走る。 時々、ふり返って確かめる。 荒野を1人じゃ走れないことは、誰よりも自分たちがよくわかってる。 少年たちは荒野をめざす。そう、相場は決まってる。 少年たちは荒野をめざす。その先の海をめざして。 6月生まれが「海なんかねーよ!」と叫んだら 1月生まれが「あるかもしんねーじゃん!」と怒鳴り返した。 12月生まれは「あったらおもしろいよね」と夢みたいな顔をして、 11月生まれが「ねーだろ?」とそうでもない顔をして言ったから、 8月生まれは「あってもなくても走らなきゃ」と真剣な顔をした。 少年たちは荒野をめざす。そう、相場は決まってる。 少年たちは荒野をめざす。その先の海をめざして。 もし、本当に海の音を聞いたなら。 もし、本当に海の音をみんなで聞くことができたなら。 ……一体キミは、どんな顔をするんだろうね? 荒野の先には海がある。荒野の先には海がない。 そんなことはわからない。そんなことは知らない。 だけど、とにかくここには居場所がある。 ここには、僕の、居場所があるから。 だから少年たちは荒野をめざす。少年たちは、荒野を、めざす。 少年たちは、荒野を、めざす。少年は荒野をめざす。 |
JUNON・2000年8月号に「PHOTO STORY OF 嵐」という企画で、映画監督の豊田利晃氏が嵐の各人に合わせて(?)書いた文章が掲載されました。その書き出しはすべて「○月生まれの少年は…」で始まるものでした。で、これをいたく気に入ったぶんが「まねっこ」と称して日記にちょこちょこっと書いたものを手直ししまして、今回ここにupの運びとなったわけであります。一応、これがぶん的「スッピンアラシ」の感想ということで……、さらっと読んでさらっと忘れて頂ければサイワイ。 |